週刊isologue(第13号)新聞業界は今、どうなってるか?(問題意識編)

情報通信革命の進展と経済の市場化の進展で、現在、世界の「情報」の流れ方が大きく変わろうとしています。

従来の世の中では、「正しい情報」を得るということは、非常に大変だったわけで、マスコミ各社は、基本的には「足」で情報を収集したり、マスコミ以外が入れない「記者クラブ」で情報を得てきました。

(もちろん、今でもそうした形で収集された情報には一定の価値があります。)

しかし、適時開示制度の進展で、上場企業などの企業の情報は、情報の発生からあまり間を置かずに一般に開示されるようになり、それが、マスコミという仲介者を経ずに、インターネットを通じて直接、投資家や消費者が入手できるようになったわけです。

官庁からの情報も、官庁のホームページやメールマガジンなどで、大量に発信されるようになりました。

マスコミは、従来、国民の意識の形成に非常に重要な影響を与えてきましたし、今でも非常に重要な影響を与えています。しかし、そのマスコミ自身(特に業績等)についてはあまりマスコミでは語られることがないので、こうした環境の中で、マスコミが今、どういう状況に陥っているかを理解されている方はかなり少ないのではないかと思います。

そうした問題意識をもとに、6月1日にお届けした週刊isologue(第9号)「テレビ業界は今、どうなっているか?」では、在京民放キー局各社の開示資料をもとに、現状、どのような業績の変化が進んでいるか、それに対して、資本政策や多角化等で、各社がどのような戦略を採用しているのか、といったあたりを検討してみました。

今週と来週の「週刊isologue」では、そのテレビ業界とも非常に密接な関係がある「新聞業界」を中心に、こうした情報の流れ方の構造変化や各社の業績等について、いろいろ分析してみたいと思います。

今週はまず、こうした情報の流れがどう変化してきているか、我々自身が情報を収集して意思決定をするということがどう変わって行くのかについて考えてみたいと思います。

ところで、テレビ業界については、在京民放キー局が全社上場しているからいいとして、

「新聞社は上場してないから、開示はほとんど行われていないんじゃないの?」

と思われる方も多いかと思います。が、さにあらず。

実は、読売新聞(「株式会社読売新聞グループ本社」他)を除く日本の大手新聞社、

株式会社朝日新聞社
株式会社毎日新聞社
株式会社産業経済新聞社(産経新聞他)
株式会社日本経済新聞社

については、非上場にも関わらず、様々な事情により有価証券報告書が提出されており、金融庁の「EDINET」

http://info.edinet-fsa.go.jp/

のサイトで誰でも閲覧することができます。

(日本経済新聞社は12月決算なので、最新の有価証券報告書は3月に開示されてますが、他の3社の有価証券報告書は、先週25日26日に開示されたばかりです。)

また、

「誰でも閲覧できるということは、誰でも知っているってことだから、そんな情報に価値は無いんじゃないの?」

と思われる方も多いと思います。

ところが、最も中身の濃い開示資料である有価証券報告書等は、誰でも閲覧できるにも関わらず、ほとんど誰も読んでない可能性が高そうなんですね、これが。

以前は、EDINETを読んでいる人のトラフィックを抽出するのは難しかったのですが、昨年3月から、金融庁のサイトからEDINETだけが分離されて新しく独立したドメイン「edinet-fsa.go.jp」になったので、その分のトラフィックだけを抜き出せるようになりました。

ということで、先ほどふと、EDINETのトラフィックがどの程度あるのか初めて調べてみて、愕然としたんですが、

ネットの本屋さんで有名な「Amazon」の関連会社が運営している「Alexa」のデータで見てみると、

図表1.EDINETと弊ブログのReach(訪問ユーザ数)比較(出所:Alexa

なんと!
上図のグラフのとおり、EDINETの利用者数は、弊ブログ「isologue」をご覧頂いている方の数とあんまり変わらないのであります。

もちろん、各社のホームページ等でも有価証券報告書等を掲載してますので、そちらをご覧になっている方も多いかとは思います。また、必ずしも、個人投資家などが直接に生データを見ずとも、アナリストの方が生データを分析して、加工された情報が流通するのでも構わないとも言えます。しかし、それにしても少ない・・・。

(また、新聞社からは話がそれますが、アナリストの方々も「絶滅危惧種になっている」てなことをおっしゃる市場関係者も多いので、今後もアナリストに頼った情報入手でいいのか?という問題もあります。

これも、「情報の流れ方の構造変化」という根本的な問題に起因していると考えられます。)

分厚い開示資料を読むのは面倒に思えるかも知れませんが、慣れてポイントをつかめば、数分で要点を押さえることができますし、こんなに正確で詳細なデータをほとんど誰も見てないのであれば、極めて大きな「情報の非対称性」が発生している可能性があるわけです。

つまり、ちょっとした努力で他の人より正確にモノゴトを認識できることはもちろん、他の人を出し抜いて儲けるチャンスも隠されているのではないかと思います。

というか。

この有価証券報告書や内部統制報告書といった書類を作るために、日本全体でいったいどれだけの努力と何千億円・何兆円のお金が費やされているのかを考えると、企業の現場で開示に携わっている方々その他の市場関係者は、みなさん、このデータみて、

「私たちオレたちのやってることはいったい何なんだ?」

と、号泣されるんじゃないでしょうか。

また、これはそもそも、「市場経済」にとって由々しき事態ですよね?

経済を「自由な市場に委ねて構わない」という思想は、「正確な情報が適切にあまねく伝わっている」ということが大前提になっているわけです。

しかし、もしその「情報が適切に伝わっている」という姿が幻想だとしたら、 経済を市場に委ねようという思想や「自由」を良しとする思想そのものが崩壊しかねません。

そして、従来、詳細な情報を広く流通させることに非常に大きな影響を及ぼして来た新聞というメディアが、現在、構造的にも業績的にも大きな転換期に差しかかっているいるわけです。

広告代理店の調査などでも、特に若年層ほど、新聞を読まずに携帯やPCなどのニュースで済ませてしまう傾向は進みつつあり、昨今の業績下降は、単なる一時的な不況の影響に留まらず、新聞という媒体の経済的・社会的価値の長期的な下降トレンドであり、これを覆すのは、非常に難しそうに思えます。

新聞業界が疲弊し、大手紙の中にも赤字の企業が現れてくると、世の中には、

「今までさんざん知識人ぶって高い給料もらいやがって。ザマー見ろ!」

と快哉を叫ぶ人もいるかも知れません。

しかし、それはもしかしたら単に給与体系のいい一つの業種の調子が悪くなることに留まらず、非常に恐ろしい社会の始まりかもしれないわけです。

フランスでは、新聞主要紙を国が700億円かけて救済する事態にまで発展しているようですが、仮に日本でもそんなことが起こったら、「民間事業会社を公的資金で救済するのはケシカラん」といった言論は、(今までも形成されたかどうかはさておき)形成されなくなるんじゃないでしょうか?

また、情報が正しく伝わることが市場経済にとって大事だからこそ、開示や内部統制、監査制度などが年々厳格になってきているわけですが、そもそもそうした開示された情報を誰も見てないんだったら、「コンプライアンス不況」の意味もなかったし、西武鉄道もライブドアも上場廃止になる必要もなかったはずじゃないでしょうか?

 

「将棋化」する世界

投資家・消費者が直接生データを手に入れられる時代になっているということは、つまり世界は、「将棋」のように、 データがすべてオープンになっているゲームに近づいてきているということを意味します。

十数年前は、識者の方々はみなさん、「インターネットの登場で、情報が世界にあまねく行き渡るから、世界中、平等な世界が実現する!」と言ったユートピア的なことをおっしゃってました。

しかし、情報がどのプレイヤーにもオープンになっているからといって、みんなが将棋で羽生名人と互角に戦えるわけではない

むしろ、オープンな情報のゲームというのは、クローズドで運に左右されるゲームよりも、分析力や思考力で大きな差がつくわけです。

経済も同様に、情報を使う人使わない人、分析ができる人できない人で、情報がクローズドだった時代よりもむしろ大きな差がつきつつあるのではないかと思われます。

この「週刊isologue」というメルマガをはじめようと思ったのも、こういった社会の変化にあわせて、開示されているデータを読んで分析する「力」や「習慣」をもっとたくさんの人が身に付ける必要があるのではないか、と思ったということであります。(かっこよく言えば。)

(本音を言えば、ブログだと、忙しいことを言い訳に書かなくても誰からも怒られないので、毎週発行する責任がある有料メルマガを書くことで、いつも大量の開示資料や統計データを読まなきゃいけない状況を自らに課すことができる、ということが大きいです。

年取ってくると、人はどうしても「私の経験では、こう思う。」で済ませようとしがちになるし、特に日本の社会だとそれで済んでしまう危険もあるので、「生のデータ」で検証する姿勢を忘れないようにしたいなあと。)

 

また、実際に、そういうデータを見ることは、すごく楽しいはずなんです。

シャーロック・ホームズなどの探偵小説で、現場に行かずに事件を解決する「アームチェア・ディテクティブ(Armchair-Detective)」というのがありますが、経済の世界でも、そういうことができるようになりつつあります。

なぜなら、例えばマスコミ自身に関する情報を例にとると、特に発行部数などについてはあんまり信用できないことも多いのですが、有価証券報告書等の法定開示資料については、ご存知の通り、虚偽記載には「十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金」(金融商品取引法第197条)という極めて厳しい罰則が待っているわけです。

マスコミの書くことがウソばっかりなんてことは思っておりませんが、少なくともこうした開示資料については絶対ウソは書けませんし、仮に「虚偽記載」をして大手新聞社の社長が逮捕されるというようなことになったら、その新聞社の信用と経営に壊滅的な影響を与えることは間違いない。

(ところが、「投資家のことを第一に考えてコンプライアンスとか開示とかに神経をすり減らしてます」といった度合いが、上場企業より非上場の新聞社の方が強いという感じはあんまりしませんので、大量の開示資料に「爆弾」が潜んでいる可能性というのは、結構あるんじゃないかと思います。

無いことを祈りますが。)

欧米では、「節税は、最高の室内ゲーム」なんてことをおっしゃるお金持ちの方も多いと伺いますが、企業の開示情報を見て世の中の裏を知るということは、タダで誰でも楽しめるし、かなり楽しいと思いますよ!

ということで、次週は、

株式会社朝日新聞社
株式会社毎日新聞社
株式会社産業経済新聞社
株式会社日本経済新聞社

の4社の有価証券報告書を中心に、各社の業績、資本政策、社主の相続問題、事業構造やテレビ局支配構造の変容について考えてみたいと思います。

ご興味がありましたら、下記のリンクからご覧いただければ幸いです。

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スタートアップやファイナンスについて考えるブログ。「週刊isologue」は定期購読マガジンです。 フェムトパートナーズ ゼネラルパートナー磯崎哲也が書いてます。 https://femto.vc/ 「起業のファイナンス」「起業のエクイティ・ファイナンス」という本を出しています。

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